北部のチャビン、南部のパラカスに続いて、紀元前後からより地方色の強い文化が各地に誕生します。
その一つにナスカと呼ばれる文化が南部海岸に栄えました。
これはパラカスを基盤にしたものですが、更に個性的な文化といえます。
織物では技術が一段と進歩し、アンデス地帯で見られる殆どの技法が展開された時期です。
家畜化されて久しいリャマ、アルパカは勿論のこと、ピクーニャの毛も素材として高地からもたらされ、
染色の技術も飛躍的に伸びて色数も驚くほど豊富になります。
モチーフは魚、鳥、昆虫、果物など身近なものが目立ちますが、チャビン、パラカス以来の宗教的モチーフも
受け継がれています。
このナスカ期に不思議なものがあります。
地上絵といって、河川の両側に広がる一木一草も見当たらない礫砂漠の大地に築かれたものです。
幾何学文様や動物、植物の姿を小石を除いた跡を線として描出したものです。
数10mから巨大なものは300メートルにおよぶ大きさの図像です。
その目的、意味に様々な解釈がなされていますが、いまだ確かな解明はされていません。
手の絵ですがよく見てみると指の数が4本と5本の合計9本です。
地上絵のサルが9本なのでサルの手かもしれませんがもしかすると鳥の足かもしれません。
あるいは、この地方の乾季の月の数を現しているという可能性もあります。
次にクモの絵ですが、このクモはアマゾンの熱帯雨林にしか消息していないリチヌレイという希少な種類です。
彼らはアマゾンの奥地に出入りしていたのでしょうか?
ハチドリの絵は全長約110m、横幅96m。実際飛んで羽ばたいているように見えますね。
多くの地上絵がある中で、ハチドリは比較的線もハッキリ残っていて分かりやすく保存状態も良い方です。
ハチドリはアンデス地方の一部では豊かさを象徴する神の使者とされています。
また、方向からナスカ人のカレンダーであったという説をもあります。
尚、この地上絵はナスカ期だけに見られるものではありません。
以前にも以後にも作られましたが、ナスカの代名詞になるほどこの時期に集中していたようです。
ともあれこの時期ミリ単位の織物の繊細さと、空からしか容易に確認できない地上絵の開放された
気宇が数百年の歴史の中で混在していたわけです。